あざらしそふと零さんの「ヤミと祝祭のサンクチュアリ」感想です。
あざらしそふと零「ヤミと祝祭のサンクチュアリ」
2017年10月発売作品。

あざらしそふと零さんの「ヤミと祝祭のサンクチュアリ」は、
”神話が息づく島で紡がれる学園伝奇ADV”。

姫神亜梨栖は、行方不明になった姉を探すために神座島に向かう。
誰でも入れるわけではなく、招待されないと入学できない学園島。
姫神は世界有数の財閥で調査力もあるはずだが、
姉の静を探すことは何故か許されていなかった……。
という導入です。

それでは、感想です。
ネタバレは、ほぼありません。



素晴らしい作品です!
体験版プレイした時にも感じましたが、
公式サイトのコンセプトに掲げられた要素が、全て満たされています。

”桐月氏原案による、本格派伝奇ノベル”

原案を桐月さん。シナリオを桐月さんと温泉大祐さん。
まず、ここが素晴らしかったです。

”息づかいさえも聴こえてきそうなほどの、ハイクオリティな舞台背景”
”神剣桜花が描く、愛らしくも上品な巨乳ヒロイン”
”ユーザビリティ溢れるゲーム設計”

これはもう、公式サイトを見ただけでも分かるかと思いますが、
製品版でなお、よく伝わりました。

また、舞台背景や物語をさらにミステリアスに彩ってくれたのは、
間違いなく鷹石しのぶさんの音楽だと思うんです。
引き込まれて、ものすごく良かったです。

正直言いますと、キャラクタのデザインに関しては、
好みから外れることも多いデザイナーさんではありますが、
作品の登場人物として、全く違和感を感じない。

プレイしているうちに、例えば、綺堂悠里はこういう存在だと、
見事に受け入れられていたんです。

同様に、通常であれば、声を担当されている方の印象に引っ張られがちなものですが、
誰が担当しているのか、気にならなくなっていました。
忘れたわけではないのです。
むしろ、聴いたことのない方の声は、無いのです。
でも、キャラクタとしてスッと受け入れられていたんです。
これは物凄く不思議なことで。

島のミステリアスな雰囲気作り。
背景や彩色が見事で、音楽も浪浪として響き、
異質な存在が感じられる場所として、神座島を受け入れることができます。

これはもしかしたら、学園はあるものの、
完全に舞台の中心ではないからなのかもしれません。
森の中、このグラフィックです。
そして、流れるBGM、「水底の静寂」。
神秘さと、出没自在な何かが居る雰囲気。
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インターミッションとしては、姫神亜梨栖と出雲宗司が借りた部屋。
ここで、二人が、島にいるであろう脅威についての検討をしていくのが、
とても面白いです。
「凜然とした横顔」。この曲は姫神亜梨栖のテーマでもあるのではないでしょうか。
島がどんな場所だろうとも立ち向かう凜とした空気があります。

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同様に、「微笑みはやわらかに」は綺堂悠里の、
「秘密は乙女の嗜み」はユーリエ・フォン・フェルトベルグ。
「気高く咲く一輪の花」はクローデット・ベルフラウ。
それぞれのテーマかもしれません。

浜辺、夜。
ここで「立ちはだかる断崖」「祝祭なき夜」が流れると、
宗司の目の前には、出雲流の敵が相対していることでしょう。

脅威を目の前に、戦闘が始まれば「闇夜に蠢く者達」「神を屠る拳」が。
そして、出雲流の業が敵を討つ。

あの、今更気づいたんですが、
全く捨て曲が無いんですよね。
コミカルな場面を演出する「ターキー☆トーキング」も含めて、
素晴らしい曲ばかりです。

本当に、音楽と画面のクオリティの高さ、マッチング度合いは凄まじいと思います。
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では、シナリオはどうか。
これが、また良いんです。

よく見てみると、ほとんどが会話主体の物語運び。
なのに、全く話が飛んでいるとか、
説明が足りないとか、そう感じた箇所が全くないんです。
ミステリアスな雰囲気を壊さない。
主人公など登場人物の悪手で興を削がれることもない。
誰もが、誰もなりに懸命で。そして賢明で。

――けれど、それを上回る事態が訪れる。

先が気になって、クリックして進めたいのですが、
セリフをじっくり聞きながら進めた方が、舞台の雰囲気がしっかり伝わる。

このセリフを聞き取りやすくするため、BGMは40に設定をしました。
セリフは100。
自分の環境では、これぐらいが良かったようです。


綺堂悠里、ユーリエ・フォン・フェルトベルグ、クローデット・ベルフラウ、姫神亜梨栖の順で、
進めました。

恐らくこの順が最適と思われます。
少なくとも、姫神亜梨栖だけは一番最後にしないと、堪能しにくいと思います。
全てのヒロインの秘密というか事態が内包されてしまっているためです。

進め方も結構大事なところだと思いますから、
ルートロックはあったほうが良い作品だと思いました。

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「わたしこれ、初、お姫様だっこ……」
綺堂悠里(八尋まみさん)

うーん、本当にクリアしても八尋まみさんだと気づきませんでした。
綺堂悠里、という存在でした、見事に。
名家お嬢様たちばかり。政治的なやりとりができるレベルの。
そんな神坐学園で、悠里の存在は癒やし枠だったように思います。

悠里自身が、どんくさいと把握しているように、
ふわっとした悠里の存在を、神剣桜花さんのデザインと、
八尋まみさんのゆったりした演技で見事にカバーしています。

そんな悠里も、体験版範囲で見られるように、特技があります。
それが、弓。
幼い頃から行っていたので、ある意味、宗司とは近いスタンスがありますが、
その弓を辞めてしまっています。

気兼ねなく話せる数少ない存在ですが、だからこそなのか、
体験版でも発生したように、別な派閥の存在に幽閉されてしまったり。

弱さも分かっていながら、それでも強くあろうとする悠里は、
ノアにアドバイスをもらい、気持ちに素直に、真っ直ぐに貫くよう、弓弦を奏でる。

主人公を救う展開なのに、全く不快に思えなかったのは素晴らしい。


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「……い、言うに事欠いて、女の子に魔王だなんて」
ユーリエ・フォン・フェルトベルグ(歩サラさん)

これも本当に歩サラさんだとは気づきませんでした。
フェルトベルグ家は歴史深い家らしく、それなりの縛りが見られます。

派閥は作ろうとしていたわけではないが、
いつの間にかユーリエの周りに人が集まってきたという形成。
押しつけがましくないが立ち振る舞いにも魅力があるようです。

「素行に問題がなく成績も優秀。大きな派閥を持っていて、腹芸もできる」
生徒会長の蓮杖寺彩夏すら、高い評価を抱く。

さらに、ユーリエは超能力のような力を持っているという噂もある。
最後の最後まで、その秘密が見えてこないというのも、ユーリエの魅力です。

最後は悩みましたね。怪異も様々、というか。


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「ただ、下を向いていることが馬鹿らしくなっただけですの」
クローデット・ベルフラウ(桃山いおんさん)

学年における最大派閥を従えるクローデット。
しかしその多くは、ベルフラウ家の元に集まったという仕組み。
その仕組みによって、島のルール、従者制限に細工をした……というのも、
ベルフラウ家の意向。
それによって、クローデットが望まないことを水面下で行われていた、
というのが体験版のハイライトだったと思います。

以降も、おバカキャラに見えたり、
オチ担当みたいな扱いになることが多かったわけですが、
それが、入学当初に抱いた誇り通りになったわけで。

見せ場多いキャラクタです。
「どんな時も周囲の空気を読まずに笑っている――
 それくらいが丁度いいのだと、ようやく思い出したのです」
なんて格好良いセリフでしょうか。


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「もしかしたら、私にとっても今が一番学生としての生活を楽しんでいるかもしれないわ」
姫神亜梨栖(風音さん)

他のルートでも、とにかく見せ場の多いキャラクタです。
宗司を武とするなら、亜梨栖は知。
全てに置いて、解決への道程には、亜梨栖の知があった気がします。
丸きり宗司に任せることでもなく、解決のために必要ならば遠慮無く自らの身で対処する。
そこに躊躇はない。
一人でも立ち向かうし、場合によっては宗司を切り離したりも。

さすが最終ルートというだけあって、
島全体を巻き込むスケールで物語が進行します。

これが、物語の全て……。


主人公、宗司の出雲流も良かったですよね。
足場にドシッと踏み込んで、その力を主軸に重ね手で放つ技が多くて、
すごく格好良かったと思います。


伝奇というジャンルは色々な作品が出ていますが、
ここまで頭から終わりまで、適度な緊張感を保ち、緩みもなく、
楽しめた作品は、久しぶりだと思います。
初めてだ、と思っても良いくらいでした。

バトルものとしても、動きが分かりやすかったですし、
手に汗を握るというか、高揚感がありました。


そうそう。
サウンドトラック売ってないのかな、と思ったら。
なんとコミックマーケット93のま~まれぇど&あざらしそふとブースで販売とのこと。




本当に一気に読み進めてしまって、こんなに面白かったんだなと。
どうして後回しにしてしまったんだろうかと悩んでいます。
これには、理由がふたつあって。
本数を積み過ぎていること。
それと、少しだけ、他の方の感想を読んでしまったのですね。
これが一番良くなかったと思います。
自分が楽しめるかどうかが大事だなと、改めて。