COSMIC CUTEさんの「空のつくりかた」感想です。
『空のつくりかた』応援中!
2016年10月発売作品。

COSMIC CUTEさんの「空のつくりかた」は、
不思議な曇り空の街、ナオカで、訪れた魔法使い見習いと、
何でも屋ではない探偵との出会い。
そして、その街に起こる大きな出来事を描いた、一大スペクタクルです。

体験版は3つ出ており、そこまで見せても期待の高まる物語だと感じました。

それでは、感想です。
ネタバレは、さほどありません。



まず、街の雰囲気作りが物凄く良かったということを挙げたいと思います。

ギャングめいた存在がでてきますが、
それらの描写も含めて、良かったんです。

マンマことオズニアの制裁の仕方。
アイロン、ってところが見事ですよね。
ハーヴィーのやり方も同じように感じます。早すぎる……とかね。
周囲の抗議の声をまるで聞こえないように扱ったりとか。
こういう表現が本当に上手いなと思っています。

Felion Soundsさんの音楽。
本当に良いですね。作品世界のナオカを見事に表した音楽で、
例えば、「コモレビノート」から「Coffee or Tea」。
ナオカの下層を車を走らせながら、
あるいは探偵事務所へついソファでじっくり聞いてしまうような曲ばかりです。
すごく雰囲気を感じられます。

これと、背景が見事にマッチしていて、
ああ、こういう街並みで、街なんだなぁ、と思えます。

曇り空のナオカ。灰色の街。
少しローテクで、探偵はクラシックな車に乗り、この街では珍しい携帯電話をもっている。
ダイナーではおいしい食事が取れ、一方で襲撃されることもある。
抗争をしているのは二つの勢力。
街の外れには錬金術師が手ずから野菜を作っている。
膨大な世界の書物を集めた図書館がある。
頻繁に暴力沙汰は起きる。たまに、銃撃も起こる。
でもこの街は、たったひとつの存在に逆らうことは出来ない。
支配しているわけではなく、ただ一つルールがあるようなもので……。
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すごく雰囲気のよい街作りができて作品なのです。
一番良かったのは、ここだと思います。

街とは、どんな興りで、どんな建物があって、どんな人が居るか。
どんな食べ物が親しまれて、
もうね、とにかく場作りがうますぎる。
素晴らしいと思います。

会話も小気味良い。
シニカルなところもクールなところも、
想いがストレートにぶつかる場面もたくさんあって、この街の人だ、と伝わる。

どのヒロインも、背負ったものはとても読み応えがありましたし、
物語はとても面白かったのです。


”果報者たちの午睡”
白崎和葉(桜似あかりさん)
エルートの少女。両親は亡くし、ロウェスト(下層区)暮らし。
多産なエルートらしく弟妹が多い。

家族をとにかく大事にしていて、
家族のために仕事をし続けている。とにかく。
仕事で急いでいたところ、追われるハルをかばって自分が追われ、
そして諒の車の上に落下するという出会い。

家族が家族を思いやる。
和真のことと、同時に進んでいく関係。
すごく良いです。

まとまりがすごくあったルートだと思うんですよね。
サプライズもあって、決着も良くて。
オズニアさんお手製の踊り子ドレスも良い。



”穢れ姫の憂鬱”
ユリカ・ヴィストヴォルグ(海原エレナさん)

ナオカを二分する組織”鎖の処女”の用心棒。
基本的には鎖の処女のトップ、
オズニア・デルデレッデルデァ(香山いちごさん)の護衛だが、
それ以外の仕事も請けている。
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このイベントの場面、なかなか良かったですよね。
いつもは協調、協力することの多い間柄の二人が、
属している組織の意向で、敵対する。
心ならず、ではなくて、これまでも何度となくあったことであり、
決着が付けばそれで掘り返さない。
そして、それでも一緒に食事をする間柄だということ。
そして、酔うと諒を相手にイタズラをするということ。

物語は、”穢れ目”についてのもの。
穢れ目は、呪いを撒き散らすものだが、
その成立過程も呪われたものだという。
その制御がおかしくなり……。

強い女性が見せる一面を、存在の根幹から描いて見せたのは面白かったかも。
あとオズニアさんほんとマンマね。

というか、半同棲モードになって、料理は作る、甘いものは実は好き……、
色々見られるのも、なかなか良かったです。



”あの丘で会いましょう”
ノア=クリケット(猫村ゆきさん)

ハイアー(高層区)の外れ、蛍の丘と呼ばれるところで、
自給自足、家庭菜園をやって暮らしている。
蛍の丘はナオカと違い静かな山野であり、人もほとんどいない。

感情に乏しく、言語表現が苦手であり、知識もままならないところがある。
キャッチコピーの”無色透明のお人形”というのが正にふさわしい。

体験版でもあまり深くは描かれなかったところもありますが、
実は、カガリ老人の創った魔法生物――ホムンクルスであり、
ホムンクルスは、ひとつの命令に存在意義を持つ。
となれば、不思議な老人、カガリとの物語になっていくわけです。

他のルートでも、自身を媒介とする流れがあったり、
この世界でのホムンクルスはどういうものなのか、
しっかり描かれていたのが興味深かったですね。

あまりネタバレが過ぎてももったいないので、
書けないことが色々……。

このあたりから一気に魔法との親和性が高まります。



”黄昏からの巣立ち”
ハル=クリス(羽鳥いちさん)

幸せの種を持つ、ナオカに移住しようとする自称一人前の魔法使い。
移住には、リーザルの承認が必要であり、雛鳥と呼ばれてしまう。
全方位お節介魔法使い。
こうしなければならないと意気込んだ時の、他人への関わり方が濃い。
停滞していたわけではないが、ハルの気質で物事が進んだり動くことが多い。

ルートは一番最後です。
ハルそのものが抱えた色々、例えば母である”八葉の魔法使いの一葉”とどう過ごしたかとか、
そこに仕掛けられた物事も色々あるのに、
そのあたりは全く描かれること無く進んでいってしまうのがもったいない。
でも、描かれないだけで設定はしっかりあるのがわかるんですよね。
無理矢理出した印象が全く無い。

でもだからこそ、ハル本人にもっとフォーカスして、
ナオカを主軸にせず、描いて欲しかったルートとも、思うのです。
”黄昏の雛鳥”というだけあって、見事に締めてくれたとは、思います。

もちろん、ここまでのヒロインのルートが、
順繰り、登場人物達と街の秘密を解き明かしていくものであり、
最終的には大幹へ至らなければ納得しづらいのは分かるんですけれどね。

それはそれとして。
羽鳥いちさんにマッチしすぎたキャラクタで、
もうハル=クリスは羽鳥いちさんのもの、というか。
会話していても、甘いものを食べてほにゃっとしているところ、
色々起きて慌てているところ、全てが合致しまくっています。


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ただ、「諒ちゃん」呼びをしてくれたであろう、
チロロ(秦座林檎さん)のこととか、記載が無いので、
もう少し何かあっても良かったんじゃないの、読みたい、そんなふうに強く思いましたね。

というのも。
恐らく、最初から最後まで、五十海諒の物語でもあったわけです。
その五十海諒は、公式サイトにもあるように、過去にある失敗があって、
(失敗という表現が正しいかはさておき)
それをずっと引き摺っているのか、空っぽのまま生きている。
それをハルに見抜かれて、体験版は終わったわけです。

その解決は、主軸になるようで居て、実はそうは描かれませんでした。

「全面を割るハンマーは無い」
これもハルが言った言葉ですが、これも回収されていたかな……?
言われて、諒はかなり衝撃を受けていたわけですけど。
その後も、数ある面のひとつ、という表現で再登場するキーワードです。

でも、振り返ってみれば、和葉は家族。
ユリカも家族。ノアも家族……と、諒の物語と同時併走していたといえるんですよね。
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(どういうわけかオズニアさんが好きで。
 めちゃ表情が崩れているところ、セーブしてしまいましたよね。
 というかオズニアさんってエルートなのでしょうか)

全面を割る、という示唆的なキーワードと、
諒の決着は、相反しているようにも思うんですね。

でも、諒の決着は、そうあるべきなのかとも思います。
筋は通ってる。
ここはちょっと難しいところですね。


もしこれからプレイされる方がいるのであれば、
必ず初回版でないといけないと思います。

理由は、初回版特典の「そらつくアートブック」にあります。
確かにデザイン、原画集ではあるのですが、小説がついているんですね。
これが、本編の補完するものになっていて、
しかもそれが、非常に重要な存在、
ナオカの主ことリーザル=フェッフォゥンファルフォン(綾瀬あかりさん)についての物語なのです。
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ナオカは、どんな街として存在してきたのか。
この街の過去は。

ですが、ある意味、これは蛇足でもあるのです。
もし仮に、このリーザルの話が世に出されなかったとしたら、
「空のつくりかた」は本編だけになります。
そして、あのエンディングを迎えて、それをどう受け止めるかだけで終わります。

そうなると、ある意味、起承転結は為されており、
(やや、「虹の根本を見に行こうよ」が浮きますが)
それだけでも問題は無かったと思うんです。

が、ブックレットがあったことで、
本編で未完というような印象を持たれているように思います。

良かれと思ってつけたものが、逆の印象を持たれてしまったようで、
少しもったいないですよね。

でも、リーザルの物語が読めるのはこれだけでもあり、
きちんと楽しめるんですね。


いや、サウンドトラックだけでも相当の価値があるので、
これはやっぱり初回版がオススメです。
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むうつきさんのデザインもめちゃくちゃよかったですよね。


正直、体験版でプレイした時の期待以上でした。
やっぱり設定などをしっかり詰めていて、その上で作られているのが分かるし、
作り手のバックボーンがしっかりしたジャンルでもあるのでしょうね。